ラストワンマイルと倉庫の接点から見えてくる、物流業界の魅力について【第1回】非言語領域にこそ答えはある

LexxPluss
Nov 22, 2021

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Photo by Hannes Egler on Unsplash

「物流」と一言にいっても様々な事業領域があり、自動搬送ロボットを開発するLexxPlussも現在は物流倉庫をターゲットにしているが、配送やラストワンマイルといった他領域の方々と関わる機会はそう多くはない。物流業界の魅力を探求するうえで、物流倉庫の視点からだけではなく、LexxPlussにはない新しい刺激を求める必要があると考えた。

そこで今回はラストワンマイル領域で事業運営する207株式会社代表から高柳 慎也氏、LexxPlussの投資家であるLogistics Innovation FundSpiral Capital運営の物流領域特化型ファンド、以下LIF)から岡 洋氏をお迎えして物流業界の魅力をテーマに対談を行った。

207はLexxPlussと同様、LIFから出資を受けており、それがきっかけで今回の対談が実現した。本記事はその第1回。

※ファシリテーターとして、LIFの植木 修造氏にもご協力いただきました。誠に感謝申し上げます。

第一印象は「変わった名前だな」と(笑)

植木:
今日は、LIFの投資先であるLexxPluss及び207の2社にお越しいただきました。弊社の投資先という点で共通しつつも、207はラストワンマイル領域、LexxPlussは物流ロボット・物流倉庫内の領域と異なります。そんな中で、LexxPlussが今回207と対談するに至ったきっかけをお伺いできればと思います。

阿蘓:
ありがとうございます。我々は搬送ロボットを活用して倉庫業を支えていくという事業を運営していますが、物流倉庫がこれだけハイテクになったとはいえ、じゃあ物流って安定していますかというと全く別物の話だと思います。ラストワンマイルでも人手は足りないし、EC化が進むと今よりも更に状況が悪化する可能性があったりと、全体的な機能がしっかり作用したうえで社会インフラの役割を果たすのが物流だと思うんです。我々1社だけで支え切れるものではなく、色々なイノベーションが物流には必要だよねとずっと思っていました。

そんな中で同じ業界で変革を起こそうとしている方と繋がりを持てたら、色々と可能性は広がるのかなと思い、岡さん・植木さんにご相談したところ、同じLIFの投資先である207さんを紹介いただいたという流れです。

植木:
ありがとうございます。ちなみに207に対してはどのような印象をお持ちですか。

阿蘓:
去年あたりに記事で見たことはあって、最初は変わった名前だなっていう印象がありました(笑)ニヒャクナナなのか、ニーゼロナナなのかみたいな、そこが印象的ですね。ラストワンマイル領域で事業を起こされている方は他にも知っているんですけど、我々と似たフェーズで立ちあがってる、かつ同じ世代で創業した起業家なのかなと勝手に思っていました。

植木:
なるほど(笑)ちなみに今の印象を受けて、高柳さんはいかがですか。

高柳:
いやまあ(社名に関しては)狙い通りですね(笑)ニーマルナナとかも怪しいので覚えてもらいやすいっていうのがあると思っています。

植木:
高柳さんは、元々LexxPlussをご存知でしたか。また、物流ロボット領域にお持ちの印象があればお伺いできればと思います。

高柳:
はい。僕自身はラストワンマイルばかり最近本当にベンチマークしてたので、LexxPlussさんは正直存じ上げてなかったです。一方で、僕らもスキマ便 っていう、マイクロ・フルフィルメント・センターみたいな部分をネットワーク化して、ラストワンマイルのネットワークに盛り込むことをやりたいなとは思っているので、最終的にはご一緒できれば面白いなとは思いますね。

感覚的な話にはなるんですけど、物流倉庫には様々なプレイヤーが世界レベルでひしめき合っているという印象があるので、そこに挑戦されているのはすごいなと思っています。

株式会社207代表 高柳 慎也氏

ペインファーストで事業参入できるか

植木:
ここで岡さんにも質問です。両社とも、LIFとしては比較的アーリーステージでの投資ですが、両社ないしはお二人に対して感じた印象や、出資に至ったポイントがあれば教えてください。

岡:
まずLIFの方針として、よりアーリーステージの会社さんをご支援していきたいという思いがありました。両社ともステージが早いとはいえ、プロダクトがあり、顧客が既にいる状況だったので、ファンドとしてご支援させていただくことにしました。LexxPlussは、既に佐川急便とのPoCに入られていましたし、207はもう4年前から様々なプロダクトをローンチしながら現場のペインを探っている状況でした。参入の仕方がペインファーストという印象を持ちましたね。

両社で共通して思ったのは、お二人ともすごく落ち着いているなと。本質的なペインを捉え、ユーザーをしっかり見ている。自分たちがやらなければいけないことが何で、どのようにやっていこうかというのをじっくり考えられている。もちろんプロダクトも完全ではないし、まだまだこれからですが、やりきれそうだと感じたし、応援したいと思えました。べた褒めです(笑)

Logistics Innovation Fund 代表パートナー 岡 洋氏

植木:
ちなみに、その「ペイン」というのをどのようにして捉えられたかお二人に伺いたいと思います。高柳さんはいかがでしょうか。

高柳:
僕自身、物流のラストワンマイル領域が好きになるきっかけがありまして。学生時代、当時2007年とかですけど、バックパッカーをやっていて、大体2~3カ月とか家を空けるんですが、その期間、家賃がずっと発生していたんですよね。当時家賃が5万円ぐらいで、1泊バックパッカー行くときは50円ぐらいなんですよね。そこの差分がお金がない学生的には嫌でした。結局のところ、家電や家具が家の中にあるから、それらの倉庫代として発生する感覚だったんですよ。ですので、トランクルームみたいなところに預けていつでも取り出せるみたいなサービスがあれば使いたいなと思って調べたんですけど、当時はなくて。でも、2013年ぐらいから「Hiroie」や2015年では「ミニクラ」や「サマリーポケット」みたいなサービスが徐々に出始めて、僕がやりたかったサービスと似ているところを感じて、サマリーポケットを運営しているサマリー社というスタートアップに話を聞きにいったんです。

そしたら、あれよあれよという間に「サマリーポケット」にジョインすることになり。プロダクトの事業開発に携わり、ユーザーインターフェイスをチームで改善したり、資本を入れていただいている寺田倉庫さんと一緒に倉庫のオペレーションを改善したりと、貴重な経験ができました。

一方で、物流領域に至っては、例えばヤマトさんならヤマトさんのオペレーションでしか動かないんですね。ユーザーが明日・明後日に荷物を届けてほしいと思っても、5万円・10万円払ったところで対応できないですし、時間指定も難しいみたいな。

そこから自分がやりたい世界観って、「いつでもどこでも物を預けられて届ける」みたいなものかなと思い始めました。でも、それを達成するためにはどちらかというと配送領域の方がキーになると思って、2016年ぐらいから物流ラストワンマイル領域を色々研究していました。そうしたら、このラストワンマイルの再配達問題などに自分の手触り感があったので、サービスを着想して現在に至るっていう感じですね。

岡:
日本では、ヤマト・日本郵政・佐川急便とラストワンマイル領域が出来上がっている中で、その中に参入するのはなかなかすごいなと思ったんですけど、恐怖はなかったですか?

高柳:
起業のきっかけがラストワンマイル領域のペインを解決したいところにあって、あまり恐怖心はなかったんですよね。起業して一発当てたいみたいな感じだと恐怖っていうのが多分出るんですけど、やりたいことがそもそも「ラストワンマイルの負を解決したい」だけで、ペインも明確だし解決できるソリューションを提供すればいけるんじゃないかなっという感覚はありましたね。

阿蘓:
ちなみに、僕からの質問もいいですか。最初、起業したときに現場へヒアリングに行くじゃないですか。最初はどういう感じで始めましたか?

高柳:
最初は物流サービスのプレスリリースを打ったんですよ。物流業界があんまりやってないことが良いだろうと思って、夜間配達サービスっていうサービスをちょっと作ってリリースして…。

岡:
やってたやってた。

高柳:
そうです(笑)夜間配達する会社はいなかったので、自分たちでやれば物流系の会社・仲間だと見られるので、リリースを打った後に連絡が来て「夜間配達でやってるんですね」「話を聞かせてください」「パートナー組みましょう」といった感じでビジネスに繋がるかなと思いました。

阿蘓:
じゃあ、最初は戦略的にネットワークを作る方法を構想して、それで顧客と繋がったってことですかね。

高柳:
そうですね。最終的にそこは顧客になるセグメントだったんですけど、最初は話を聞く土台を作るためのフックを作ったみたいな感覚でしたね。

技術とビジネスモデルの両立

植木:
阿蘓さんにも、なぜ物流業界で起業するに至ったのか、どのように顧客と繋がったのか、その過程でどのような苦労があったのか、をお話いただければ。

阿蘓:
はい。前職で自動運転の開発をずっと担当していて、それはそれで楽しかったのですが、例えばタクシーが自働化されても顧客にとってはドライバーがいるかいないかだけの違いで本質的なメリットって何だろうかとか、ふとした瞬間に疑問が生まれることがありまして。2015年ぐらいから自動運転はホットトピックとして取り上げられることが多くなりましたが、ちょっと本質からずれてるなってと思いながら技術開発に携わっていました。自動運転って技術難易度が多少高い分、それをビジネスモデルでカバーしなければいけなかったりとか、そういった両立がうまくできるサービス・製品が必要なんじゃないかと思いました。

LexxPluss代表 阿蘓 将也

前職で最後に関わったプロジェクトが、物流会社さんと一緒に工場内の構内搬送をトラックで自動化するものでして、その技術責任者を担当させていただきました。そのときに初めて物流業界の人と話す機会があったのですが、物流って当たり前に存在しているけど、裏ではすごい苦労が発生しているんだと気づかされましたね。

例えば、とある自動車工場では量産した完成車をカープールという巨大な駐車場に一回置くんですね。発注が入ると、2階建てのトラックに完成車を一個ずつ運んでギュウギュウに積めるという地味な作業が発生するのですが、本当は10人ぐらい人が必要なんだけど、実は2人しか採用できてないみたいな状態が毎日のように続いているそうです。自動化技術ってこうした社会インフラに応用させてこそ意味があるものだなと感じたのが最初に物流業界に興味を持ったきっかけでした。例えばAmazonがロボティクス化で成功しているというニュースをよく耳にしますが、自動化に成功しているのは倉庫全体のなかでもほんの一部エリアで、他は相変わらず人に頼らざるを得ない部分が発生しているそうです。

最初の顧客獲得はより地味なアプローチをしていて、お問い合わせフォームをずっと打ちまくったってところが最初ですね(笑)意外に反応があって、大手の某物流会社さんとかパッと話を聞いてくれました。その時は、前職の会社の名刺を持って新規事業のヒアリングという名目で伺ったんですけど(笑)そこから起業して物流業界と接点のあるアクセラレータプログラムに参加したりして、少しずつ業界の人とのネットワークを開拓しました。当時お見せできるプロダクトは無いに等しかったですが、無料でコンサルするので現場見学させてくださいとか、そういう感じで最初のチャンネルは開拓してましたね。

植木:
物流領域で起業して、実際に現場を見る中で気づいたニーズや印象に残ったエピソード、苦労したポイントがあれば教えてください。

阿蘓:
創業したのが2020年3月末だったんですけど、ちょうどコロナで緊急事態宣言が発令された直後だったので、物事進めるにも色々制限があったのが一番苦労しました。まずオンライン会議でお話して、次のステップでじゃあ現場見学かなとなるときに、「コロナの影響で出社制限していて…」とか言われることがチラホラありました。ただコロナの影響で物流業界って良くも悪くも需要としてはすごく高まったので、彼らとしての自動化への投資を辞める決断にはならなかったとは思います。

現場に行ってみてわかったところでいうと、現場のオペレーションって単純に図式化すると入庫・検品・保管、注文が入れば出庫で検品・梱包・発送という流れだけなんですけど、例えば発送の手順を変えるとか、トラックの来るタイミングに合わせて業務の順番を変えるとか、ファッション系か材木系を扱っているのかで最適解が変わったりするので、そこは現場に足を運ぶことでしか得られない情報だなと思います。

植木:
なるほど。弊社も投資検討する際には、同じように現場課題をなるべく深く理解するように心がけています。LexxPlussの投資検討にあたっては、「搬送ロボットが取り組む課題は普遍的なニーズなのか」という点を重要視していましたが、以前にLexxPlussの顧客インタビューで物流倉庫を訪れた際、実際のマテハン機器の配置や想像以上に狭い通路で重いもの運びながら作業員が搬送している様子を見る中で、LexxPlussのプロダクトが現場課題に立脚していることが強く伝わってきました。

Logistics Innovation Fund 植木 修造氏

非言語領域に答えは存在する

植木:
話を高柳さんに移します。実際にプロダクト開発を進める中で、現場を見て気付いたニーズ、苦労したポイントなどあれば教えてください。

高柳:
そうですね。何個かあるんですけど、一つ目は物流会社にヒアリングをしたときにMVPを作ってお見せしたんですよね。受け取りユーザーの在宅・不在がわかるだけの簡単なアプリを。

その物流会社からは、「確かに良いものだと思うけどそこじゃない」と言われました。そもそも在宅・不在以前に、例えば配送には紙の地図を使っていて、ベテランドライバーはそれを全て頭に入れているけれど、新人だったら全然できませんとか、配送業務の非効率って再配達以外にもめちゃくちゃあると。それが属人化していて物流会社的には困っているんだと。人材の流動性もかなり高いという背景もありました。そういう事情を聞いて、なるほどな、と思いましたね。当時は僕もプロダクトアウト的な発想で「僕が在宅中に受け取れればいいから、いいでしょ」みたいな感覚で作っていたので。目から鱗な体験でしたね。

もう一つは、僕が実際に配送したときの体験です。軽バンを3台ぐらい買って、プチ配送会社を営んでいたんですけど、現場の過酷さを知れたのはもちろんそうですが、自分たちのプロダクトが間違っていないんだなと感じたんです。先ほどお話した在宅・不在の通知、これが受け取りユーザーから返ってくるともうイノベーションなんですよね。在宅って通知が来たら「お!すぐに行ける!」みたいな。不在って通知も嬉しいんですね。逆にそこ行かなくていいので。元々ユーザーヒアリングしてたときにはそういったシステムが必要だと思える回答がなかったので、自分でそれを使ってみるとけど「めっちゃ必要じゃん」と思えたんですよね。物流業界の企業はそうでもないとは言ってたんですけど、自分で使ったらすごい良かった印象があって。

その2つが大きく気付いた点としてはありますね。在宅・不在の情報には使ってもらわないと本当にその良さとかわかってもらえないので、今後の課題としては出てくるだろうなとは思っています。

阿蘓:
僕も「すげえまさに」な、同じような体験があったことを思い出しました。先ほどの某大手物流会社さんにインタビューしたときに、倉庫向けのロボットを作りたいですって言ったら、「それもう遅いよ」って言われました。競合他社は沢山いるし、今さらやってもしょうがないよみたいな話を言われたんですよね。

でも、その1,2カ月後ぐらいに「ちょっと来てください」と突然呼ばれて、話を聞いてみると、現場にはロボットはたくさんあったけど全然使えていないと。実は運用すらまだ始めていなかったという感じでした。

彼ら自身も色々とリサーチ・検討は進めているけれど、彼らが満足するロボットは実は全く市場には存在していなくて、結局人手でのオペレーションに頼ってしまうという流れでした。これは物凄いチャンスだなと実感しましたね。顧客が本当に欲しているかどうかは、やっぱり実感ベースでいくべきだし、そこらへんが似ているなっていうのはすごく感じましたね。言葉だけが全てではなく、非言語領域にこそ答えがあると思っています。

(次回に続く)

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