LexxPluss代表・阿蘓が考える、日本のモノづくりとは - Interview Series #1

LexxPluss
Jun 1, 2022

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かつては世界を席巻していた「メイド・イン・ジャパン」

その存在感は今や見る影もない。

日本のモノづくりはやはり衰退してしまったのか ―

LexxPluss代表の阿蘓将也は、日本のモノづくりの現状について警鐘を鳴らしつつも、その現状をチャンスと捉え立ち向かうべきだと言う。その理由について話を聞いた。(Interviewer:橋本清花)

【プロフィール】
阿蘓 将也 | @MasayaASO
代表取締役
イギリスのマンチェスター大学大学院を卒業後、ボッシュ株式会社にて自動運転に関するプロジェクトを日本・ドイツにて歴任。世界初のレベル4自動運転システム「自動バレー駐車システム」の日本技術責任者として、日本市場導入と物流向け無人トラックの開発に従事。日本最大のモビリティ開発有志団体Deep4Driveの代表。2020年3月にLexxPlussを創業。

~日本のモノづくりは死んだか~

(橋本)以前、阿蘓さんの記事に「日本のモノづくりは死んだ」とありましたが、やはり日本のモノづくりの黄金時代は終わったと考えられますか。

(阿蘓)書いてましたね。個人的には、日本のモノづくりが変わってしまったと言うよりも「変化できなかった」ことが日本のモノづくりが死んでしまった結果だと思っています。かつて、日本のブランドはグローバルでみてもトップでしたし、製造業が日本の経済を支えていたことは間違いないです。日本のモノづくりの黄金時代では、新しい技術でクオリティーの高いモノを生産することがバリューの一つでした。しかし、中国や東南アジアでモノを量産できる技術が育ち、安価で良質な製品を大量生産できるようになってからは、日本メーカーの製品は完全にコモディティ化してしまったと思います。

(橋本)高くてめちゃくちゃ品質のいいものを買うより、安くてある程度の品質があればいいよねとなってしまったのですね。

(阿蘓)そうですね、モノが溢れた現代社会において、「ただモノをつくって売る」だけでは安価で量産化された中国製品には勝てません。それに、スマホが普及してからの時代は、ユーザーが製品に求める価値もかなり変わってきました。製品の「ブランド力」や「機能性」を求めているのではなく、その製品を使ってどんな体験ができるか、目に見えていない潜在的課題をどう解決できるかなど、「体験」や「無形価値」を求めるようになりました。製造業を取り巻く環境や、ユーザーが求める価値が劇的に変わる中では、日本メーカーが培ってきた「モノを量産する為に最適化された組織」はうまく機能しません。結果、いい製品が作れていない状況に陥ったのではないでしょうか。私は、この変化に柔軟に対応できなかったことが、日本のモノづくりの死という結果になったと考えます。

(橋本)モノを量産する為の組織から脱却する必要があったということですね。

(阿蘓)はい、そうですね。日本企業の多くは、商品企画をするヒト、ハードウェアの設計をするヒト、品質管理をするヒトなど、モノを量産する為に最適化された縦割り組織になっています。一昔前まではそれで良かったんですが、今求められている環境には適してないと思うんです。ユーザーにどんな価値や体験を提供できるか、製品をどう届けるかに焦点を絞った組織の方が絶対いいものを作れますよね。成長して巨大になった組織がダイナミックな環境変化に追いつくことができずバリューを発揮できないことこそが、一番の課題だと感じています。

~顧客課題にひたすら向き合う~

(橋本)なるほど。ユーザーの体験価値を創出する組織づくりが何よりも重要と考えられているんですね。高度な技術力を持ち合わせながら、過剰品質な製品が多い点も、日本のモノづくりが死んだ理由の一つでしょうか。

(阿蘓)技術ファーストの製品づくりという話にも繋がってくると考えます。例えば、日常で使っているリモコンとか、電子レンジとかなんでもいいんですけど。いろんな機能がついてるけど、今まで一度も使ったことがない…とか、そんな機能あったんだ!ってこと、結構ありませんか。技術者目線のモノづくりになってしまったが故に、ユーザーが求めていない機能まで詰め込んだ製品は少なくありません。もちろん技術を磨いて良い製品を届けることは重要です。それに加えて、ユーザーにとって本当に必要な機能を取捨選択し、ユーザーの課題は何かを徹底的に議論しあう組織こそが、真の顧客課題解決を実現できると考えます。ユーザーの課題を認識して、それを製品におとしこめる組織づくりが一番大事ですね。

(橋本)組織の在り方や、ユーザー目線の製品開発など課題点はありますが、日本企業はまだまだ挽回できるチャンスがあると強く願いたいところです。

(阿蘓)日本は国内だけでも十分な市場規模があり、下降気味とはいえ日本の中でもまだまだビジネスを回すことはできます。しかし、その中で何とか生き残っている状況から、大企業が危機意識をもって製造業全体の構造改革に舵をきる必要があるんじゃないかと思います。危機意識から実行して再生できるかどうかが日本の製造業の転換点であると考えます。

~次世代のキーエンスになるための組織づくり~

(橋本)日本でもグローバルに事業を展開し活躍している企業はありますが、そのあたりはいかがでしょうか。

(阿蘓)そうですね、我々が考える強い企業の特徴は大きく分けると2つあります。

1つ目は、グローバルの土俵で勝負することを前提としていて、かつグローバルでの売り上げが確立している企業ですね。日本は国内だけでも十分な市場規模があり、グローバルに挑戦する特別な理由がない中で、グローバルで戦うことを見据えている企業はやはり強いですし、われわれもそこを目指しています。

2つ目は、組織づくりですね。単純に量産するのではなく、付加価値の高い製品やサービスを開発して提供する好循環を生みだす組織づくりになっていることです。

(橋本)例えばどういった点ですか。

(阿蘓)キーエンスという会社を例にあげると、営業は、現場に足を運んで困りごとや状況をくまなく見聞きして報告する義務があるようです。また、開発の現場では、ユーザーが製品をどのように使うか、ユーザーの利益をどれだけ上げられるかという観点で付加価値が高い製品を提供することが実現できています。さらに、技術流出防止の観点でも、他国に技術が奪われないよう製造工程のノウハウをブロックする工夫もされていると聞いています。他国にコピーされることを戦略的に防いでいるんですよね。成功されている会社さんから学ぶことは多く、自社の組織づくりや製造工程のプロセスに反映させています。

(橋本)その点、LexxPlussではいかがですか。

(阿蘓)世の中にはロボット博士がつくった自己満製品って意外に多くて、その点はかなり気をつかっています。いくらロボットが好きでも課題が後付けになっていれば本末転倒です。我々の組織カルチャーは、顧客課題が根底にあり、それに基づいて行動指標や組織体系を作っています。そのためハードウェア開発に携わるひとも、一部のソフトウェア開発に関わってもらっています。単純にハード、ソフトと完全に切り分けるのではなく、各チーム一丸となって顧客課題解決という同一のゴールに向けて補完しあっているイメージですね。加えて責任分担とは何かなど、言葉の定義も徹底的に作りこんでいます。

顧客課題解決を目指した組織体制

~ハードウェアとソフトウェアの両方でしか解決できない~

(橋本)顧客課題を基盤とした組織づくりですね。ところで先ほどハードウェアとソフトウェアの話がありましたが、日本ではハードウェアのスタートアップってちょっと珍しいと思うんです。LexxPlussがハードウェアとソフトウェアの両輪で取り組む理由ってなんでしょうか。

(阿蘓)インフラ産業の本質的課題を解決するにはソフトウェアもハードウェア開発もどちらも切り離せないものだと確信しているためです。我々が挑戦している物流って社会になくてはならないインフラ産業ですよね。インフラ産業の課題は、マズローの欲求5段階でいう「安全欲求」とか「生理的欲求」とかに密接に関わっていると言えます。これら欲求の課題解決は、突き詰めていくと、ソフトウェアとハードウェアの両方をもってでしか実現されません。ボッシュ時代に自動運転プロジェクトや様々な経験をした中で、大きな発見だったんですが、自動化においてソフトウェア、ハードウェアのいずれか一方のみで解決できる問題は一つもないと気づきました。ソフトウェアとハードウェアは本質的な課題において密接に絡んでいます。たとえば、Googleもデータセンタをもっていてハードウェアを扱っていますし、AIなど注目度の高い先端情報技術も結局はハードウェアに依存していたりもします。いずれか一方ではなくハードウェアとソフトウェアの両軸でしか本質的課題解決の実現はできないので、感覚的には両方ともやるでしょという感じでした。

(橋本)本質的な課題解決にはハードもソフトも必要不可欠だと。

(阿蘓)そうですね。日本は、人口減少・少子高齢化と先進国の中でも先行く先輩です。物流、医療、製造など人口減少に伴い機能しなくなるであろう産業はたくさんありますが、他国より先に経験する課題を解決するための資源が眠っていると捉えると、チャンスは無限だと思っています。

課題先進国である日本のインフラ産業の本質的課題を徹底的に突き詰め、最初からグローバルに展開していく。それが、我々が取り組んでいることです。

~没頭できる環境~

(橋本)それら課題に挑戦する、スタートアップだからこその良さはありますか。

(阿蘓)良くも悪くも、会社の構造・考え方・製品など全てゼロから生みだせるところですね。大企業だと既にある歯車をどう上手く回すかに執着してしまい一から創り上げる機会がなかなか無いです。私も前職は大企業に勤めていたのですが、組織が大きくなるほど本質的でない基準で物事が決まったり、組織が巨大化しすぎてクイックに対応できないことってありますよね。LexxPlussでは、社会の為になるものをこの手で生みだしたいとか、社会課題をジブンゴトのように捉えて動ける人であればそれを本気で発揮できる環境が整ってますし、そのような人はめちゃくちゃウェルカムですね。変なしがらみなく没頭し挑戦できる環境で、メンバーが一丸となって目標に向かって進むことは純粋に楽しいです。わたし自身、会社を立ち上げてからは毎日朝起きるのが楽しくて仕方ないです(笑)

(橋本)羨ましい(笑)

(阿蘓)自分で裁量をもって動ける環境はありますし、会社のメンバーが明日のことを前向きに考えられるようなそんな組織にしたいですね。

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LexxPluss

Japan-based startup working on the next generation of human-centric autonomous robot for warehouses and factories / https://lexxpluss.com/